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防錆剤とは、その名の通り錆を防ぐために使用するもの。錆を防ぐ方法には大きく3つあり、1つが「金属の表面を環境から遮断すること」、2つ目が「保存する環境を改ざんする方法」、そして3つ目が「耐食材料の使用」です。
防錆剤の一つに上げられるさび止め油は1つ目の「金属の表面を環境から遮断する」方法に該当します。
防錆剤にはいくつか種類があります。具体的には、さび止め油やさび止め剤、さび止め紙、さび止めフィルムなどです。このほかにも、可剥性プラスチックスや乾燥剤、脱酸素剤インヒビター、キレート化合物なども防錆剤の種類に挙げられます。
ここではそれぞれの詳しい防錆剤の特徴については割愛しますが、防錆剤によって適している用途や性質が異なります。
ここでは、防錆剤を使用するとどのように防錆されるのか、その仕組みについて解説していきます。
防錆剤は、金属の表面に塗布したり、溶液中に添加したりすると金属の表面に防錆皮膜が形成され錆を防ぐしくみです。
防錆する方法はこの他にもさまざまありますが、他の方法に比べると防錆剤を使用した防錆は手軽さが段違い。そのため、幅広い分野で活躍する防錆方法となっています。
防錆剤には水溶性と油溶性、気化性といった分類があります。水溶性や油溶性はそのまま防錆剤として使用でき、気化性は空気中の水分が金属と反応してしまうことを防ぐことが可能です。また、水溶性の防錆剤はさらに3つに分類できます。それが酸化被膜型、沈殿被膜型、吸着被膜型です。これらもそれぞれ性質や特徴が異なり、適した金属があります。
酸化皮膜型は、金属の表面を酸化させ、表面に3~20nm程度の緻密で薄い皮膜の層を形成します。
表面が皮膜によって覆われることでそれ以上の化学変化が起こらなくなる「不動態化」の促進が酸化皮膜型の特徴であり、素地金属への密着性および防錆性が高いことがメリットです。
代表的な防錆剤として、クロム酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、亜硝酸塩があります。
沈殿被膜型は、金属の表面に防錆効果のある皮膜の層を形成する防錆剤です。化学反応によって不溶性の生成物ができる「沈殿反応」を利用し、文字通り皮膜が沈殿して金属を覆うことで防錆効果を発揮します。
なお、沈殿被膜型には水中イオンと防錆剤を結合させる「水中イオン型」と、金属イオンと防錆剤を結合させる「金属イオン型」があり、代表的な防錆剤として、前者は重合リン酸や亜鉛塩、後者はメルカプトベンゾチアゾールやベンソトリアゾールが挙げられます。
吸着被膜型は、金属面に吸着する極性基を有する分子と、油に馴染みやすく酸素を遮断する親油基を有する分子の膜を形成することで防錆効果をもたらします。なお、非清浄面では不純物が混ざることから吸着性が悪くなるようです。
代表的な防錆剤には、アルカノールアミン、脂肪酸塩、アルキルアミンエチレンオキシド付加物、アルキルリン酸エステル塩が挙げられます。
油溶性の防錆剤は、金属面に極性基を有する分子を吸着させ、さらに油に馴染みやすい親油基を持つ分子がベースオイル(基油)内に入り込んで混合吸着を起こし、くっついたり離れたり(吸脱着)を繰り返すことで強い皮膜を形成して防錆効果を発揮します。
同様に金属面に吸着させることから、こちらも吸着皮膜型といえます。
代表的な防錆剤には、石油スルホネート、ソルビタンエステル、アルケニルコハク酸無水物、アルキルナフタレンスルホン酸塩が挙げられます。
油溶性の防錆剤は、気化した防錆剤が金属の表面および表面の湿気層に吸着して極めて薄い防錆皮膜を形成。さらにその皮膜が徐々に気化していくことで金属のまわりを防錆剤で覆うことで、空気中の水分との反応を防ぎます。
代表的な防錆剤には、ゾイソプロピルアンモニウムナイトライト、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトが挙げられます。
上記以外にも、塗布すると弾力のある被膜を形成し、乾燥後は簡単且つ連続的に剥がすことができる「可剥性プラスチック」、空気中の水蒸気を吸収し結露を抑えることで錆の発生を抑制する「乾燥剤」、空気中の酸素を吸収する「脱酸素剤」など、様々な防錆材料があります。
防錆が必要となる工程や現場の状況は多岐にわたります。そのため、状況に合わせて適切な防錆剤を選び適切な状況下で使用しなくてはいけません。
自動車車体の用途などで鉄鉱石から銅板を経て加工される工程を例に、防錆剤の適用例をいくつかご紹介します。
鉄鉱石を還元し、鉄のスラブとした後に銅板の表面に黒皮と呼ばれる錆ができます。この錆を取り除くために、防錆剤を使用します。ここで使用される防錆剤は、ロジンアミンやドデシルアンモニウムクロライドなどです。
銅板を薄板に加工するこの工程では、仕上げ面をよくするために防錆剤の添加された圧延油を使用します。脂肪酸エステルやアルケニルコハク酸などが主に使用される防錆剤です。
運搬中や保管中に銅板に錆ができないようにさび止め油を塗布します。油溶性の防錆剤が主に使用され、脂肪酸やナフテン酸、アビエチンなどが多いです。
もちろん、このほかにも様々な適用例があります。防錆剤が必要となる用途は増え続けており、環境への配慮や安全性も重視する必要があるのです。今後は顧客のニーズを抑えた製品の提供を考えなくてはいけないでしょう。
防錆剤は様々な分野で利用されており、またその用途に応じた様々な防錆材料が使われています。
一例を挙げると、水系・油系どちらの防錆剤にも乳化剤・防錆添加剤・油膜調整剤・酸化防止剤・金属不活性化剤といった化学物質が添加されており、一部の化学物質については、その有害性や環境への影響などがが懸念されています。
そのため、各メーカーでは新製品を開発する際に、化学物質に関する安全性評価法の強化や二酸化炭素の排出削減などを考慮して行っているのが現状です。
油系に使用されている化学物質のうち、軽質溶剤中の芳香族化合物、例えばベンゼンなどは労働安全衛生法において含有量が規制されています。
一方で、発癌性物質として認識されているPCA化合物(ベンゼン環を3環以上有する多環芳香族化合物)については国内に法律はなく、石油連盟や潤滑油協会がアメリカやEUの基準を元に指針を作っているにとどまっているなどの課題があります。
当然ながら国内流通のみならず製品を海外へ輸出する場合、国外の法律に準拠しなければなりませんが、化学物質に関する基準は国際的にも100%完成していないのが実情です。
そのため、法律や規制は常に見直し・改正が繰り返されており、メーカーやサプライヤーはその都度それらに準じるための対応が求められています。
環境に何らかの影響を及ぼすとされる有害物質については、1999年に法制化されたPRTR制度や2008年の法改正によって、第一種指定化学物質462種、特定第一種指定化学物質15種、第二種指定化学物質100種が明記されました。
その中で防錆剤に用いられている化合物として、油系で亜鉛化合物・鉛化合物・ジフェニルアミンなど、水系でアジピン酸、エタノールアミン、モノエタノールアミンなどが指定されています。
また、環境ホルモン物質として水溶性防錆剤の乳化剤に使用されているノニルフェノールに加え、フタル酸エステルやアジピン酸エステルなども環境への影響について検討されはじめているようです。
上記のような課題をもとに、今後は防錆剤の開発において、より安全性を重視し且つ省エネ対応が求められることになるでしょう。
使用する材料についても、第三種有機溶剤への使用変更や、高引火点、低芳香族溶剤への移行、さらに現状用いられている材料が今後規制の対象となることも考慮する必要があるかもしれません。
防錆剤が入った容器や袋の中に対象金属を同梱する、シートで覆うだけで優れた防錆効果が得られる気化性防錆剤。ここではその中でも国産で使いやすい(※)気化性防錆剤を種類ごとに厳選して紹介します。
※国産の防錆剤の中でも、使いやすさを示したアイコンの該当項目が多い商品を、パック型防錆剤、防錆紙、防錆フィルムからそれぞれ1つずつ選出しています
城北化学工業
「ラン・ラン」
(パック型防錆剤)
画像引用元:城北化学HP ラン・ラン(https://www.johoku-chemical.com/lanram/)
使いやすさ・用途
特徴
・防錆成分の拡散までわずか15分。気化力に優れ複雑形状の金属にも幅広く活用
・サイズが小さく密閉容器に入れるだけなので、包装や廃棄の手間が少ない
・密閉容器や密閉袋を用いた金属の保管時におすすめ
アドコート
「アドパック」
(防錆紙)
画像引用元:アドコート株式会社・トップ アドパックラインナップ・トップ アドパック‐ G (鉄鋼用含浸タイプ)
(http://www.adpack.jp/lineup/type_gk.html)
使いやすさ・用途
特徴
・気化性防錆紙専門メーカーならではのラインナップで様々な使い分けに対応
・バリア材との併用でさらに防錆力アップ
・部品や金属の包装を兼ねた防錆におすすめ
アイセロ
「ボーセロン」
(防錆フィルム)
画像引用元:アイセロHP アイセロの挑戦02 ボーセロン®物語「アイセロの未来をかけた戦略商品のサクセスストーリー」(https://www.aicello.co.jp/recruit/about/challenge/boselon/)
使いやすさ・用途
特徴
・フィルムが透明なため海外輸送での防錆・梱包に役立つ
・ヒートシールによる密封やフィルムを利用した自動包装ができるため、密閉袋兼防錆剤としても利用可能
※2021年2月時点の情報。公式HPに記載の内容をもとに評価しています
※注釈:アイコンの意味
・繰り返し利用(効果がなくなるまで繰り返し利用できるかどうかで調査)
・即効性(浸透スピードに関する内容を公式HPに記載しているか)
・通販あり(すぐに必要な時に手軽に注文できるECサイトや通販サイトでの販売はあるか)
・防錆の工数が少ない(手間をかけずに防錆できるか)
・無臭(食品工場や家庭用商品など臭いを気にするニーズに応える商品に使用できるか)
・手に触れる部分の防錆(手に付いた時に落ちないか・使う時に手袋をはめた方が良いのか)
・ゴミ・廃棄コスト削減(段ボール一箱分の防錆をする際のゴミの大きさが15cm以内か)
・大容量防錆(ドラム缶サイズの防錆は可能か)